#01「ラッキーカラーは黒」

公開日: : 最終更新日:2015/07/08 ネタ話

TOEI093-_2305

いつものように一日が終わるはずだった。あの瞬間が訪れるまでは….。

2004年1月15日(木) 7時55分 朝の情報番組の占いコーナー
第一位     みずがめ座
愛情      吉
ラッキーカラー  黒

「おっ、今日は珍しくみずがめ座が1位じゃん。ラッキーカラーは黒かぁ。」僕は普段、占いなど信じない方なのだが、テレビの陽気な声にのせられ、黒のタートルネックのセーターに袖を通し会社へ出かけた。

21時55分 自宅前。
特別な出来事は無いまま、仕事を終えアパートへ着いた。その日もいつものように一日が終わろうとしていた。僕はカギ穴に鍵を差し込み、ドアをひいた。ひいたその腕が途中で止まった。

ドアが開かない。

謎はすぐに解けた。中からチェーンがかかっている。「?????」僕の頭は混乱した。「オレは一人暮らし。誰もいないはず。なぜ?」瞬きしながら自問自答。「………………。」

凍り付くような嫌な予感。背筋に冷たい汗が走る。慌てた僕の左手がチェーンを強引にひっぱった。なぜかチェーンは、はずれてドアが完全に開いた。目の中に飛び込んできた信じたくない光景。一瞬思考が止まった。

ベランダの窓ガラスが割られている。

嫌な予感は現実のものとなった。押し入れは無造作に開けられ、スチール棚に飾られた、あるはずのカメラ機材がそこに無い。ひとつも無い。ニコンF4、ペンタックス67ll、たくさんのレンズ。大学時代の師からもらったコンタックス167MTも無い。この状況を理解するのに時間はかからなかった。

僕の部屋は泥棒に入られたのだ!!

それから、起こった出来事は28年間生きてきて初めて体験することの連続だった。右手の人さし指が 1.1.0の順に数字を押す。「事件ですか、事故ですか?」短いダイヤル音のあとに聴こえてくる事務的な声。「事件です。」僕はその声に短く答えた。

しばらくすると「コンコン」と誰かがドアをノックした。「刑事だ。」と思いつつも「NHKの集金だったらどうしよう。」などと、場違いな不安が一瞬頭をよぎる。玄関へと足を運びながら、ブラウン管の中でしか観たことの無い刑事の姿を思い描いてみる。

「刑事」またの名を「デカ」

デカといえば「あぶない刑事」。サングラスをかけたタカとユウジの姿を期待しながら僕はドアを開けた。「港北警察署の者ですが。」目の前には、若い刑事とベテラン刑事が現れた。タカとユウジとは程遠い存在だったが、二人の登場に少なからず、僕の胸は興奮していた。

「ミヤさん、これはアテですね。」黒いスーツ姿の若手の刑事が、割られた窓ガラスを調べながら刑事特有の専門用語を口にした。「ミヤさんだって。なんか刑事っぽいな、さすが本物だ。」

ダウンジャケットを着たベテラン刑事が部屋の電気を消し、懐中電灯を照らして足跡をなめるように探す。何物かに荒らされた部屋。白い粉を使った指紋の調査。刑事もののドラマにだけ存在するはずの世界が目の前に広がっている。僕はそのドラマの中の被害者役だ。だがしかしこれは現実、ノンフィックション。

事件はドラマの中で起きてるんじゃ無い!
自分の部屋で起きてるんだ!

そんなフレーズがよぎった時、頭の上で豆電球がピカリと光った。「刑事が自分の家に来るなんて長い人生でもそうそうないことだな。あっ、そうだ!せっかくだから、この様子を写真に撮ろう。」だがしかし、それから2秒後、その計画はあっけなく中止されることになった。

なぜなら、今の俺にはカメラが無いからだ(泣)!

刑事の推測だと、この事件は独りの犯行。まず、窓ガラスをカッターで切り、ロックをはずし部屋へ侵入。そして正面のドアから誰も入ってこないように中からチェーンをかけた。その後一番最初に目についた数台のカメラを持ち出そうとしたが、数が多い。そして押し入れの中からバックをみつけ、その中にカメラをすべて詰め込みそのまま逃走。泥棒もやはり、1秒でも早く現場を立ち去りたかったのだろう。銀行の通帳や現金の入っていた引き出しなどは、荒らされた形跡がなかった。結局、指紋も足跡も見つからなかった。

「すみません、遅くなりましたぁ。」二人の刑事が帰ったあと、少し遅れて50代前半のお巡りさんがきた。少し傾いた眼鏡の奥に、人のよさそうな小さな目が映る。「散らかってますがお茶でもどうぞ。」我ながら、面白いブラックジョークだ。「さっきまで、他の現場に行ってたんですよ。今日だけで、空き巣に入られた家は3件目です。」

被害届けに必要事項を記入した後、お巡りさんも帰り、荒らされた部屋だけが残った。日付けはすでに変わっていた。正直疲れた。ついてない1日だった。

…ん!?まてよ!?そういえば、今朝の占いでみずがめ座は1位のはずだ。何が「最高の1日になるでしょう」だ。占いなんて誰が信じるもんか。

あっ!!そうだ、そうだ。ラッキーカラーは確か黒。盗まれたカメラ、レンズ、バックの色はすべて黒。刑事の着ていたスーツの色も黒。そして、犯人を別な言い方にすると……………………..黒!なんて良く出来た話だ。窓ガラスの割れた部屋で独り、感心せずにはいられなかった。

2004年1月22日(木)

それから、一週間後、この話に同情してくれた愛知に住む友人が手紙と一緒にカメラを送ってくれた。「このカメラからまた、スタートだ。がんばれ!」そのカメラの機種は……

「写るんです」

超ウケルんですけど……。

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