#05「ブルージャックによろしく」

公開日: : 最終更新日:2015/07/08 ネタ話

001 

街全体が桜色に染まった新しい春のある日

増え過ぎた荷物を整理するため、僕は久しぶりに押し入れの中を片付けていた。すると、押し入れの隅に何かを発見した。

白いテープだ。その瞬間、忘れかけていたあの男の顔が、目の前でフラッシュバックした。あれは今から3年前、僕が生まれてはじめて自分の写真をフリーマーケットで販売したときの出来事だ。

みなとみらいのフリーマーケットの会場で、僕はその男と出会った。今日がはじめてのフリーマーケットだった。その時、その男が僕の前に立ちふさがった。小柄で華奢(きゃしゃ)な体に黄ばんだ白衣を着ていた。左右に伸びた2本の細いヒゲ、よく焼けた肌。幾千もの日本語の中から、この男に最も当てはまる日本語を選ぶとしたら間違い無く僕はこの言葉を選ぶだろう。

妖しい!

限り無く妖しい。もしも、僕がゲゲゲの鬼太郎なら、間違い無く髪を逆なでていただろう。そんなことを考えていると、その男の眼球が折り畳み式のイスに座った僕の姿を完全に捕らえた。

「この写真、兄ちゃんが撮ったのかい?」
並べられたポストカードをにらみつけながら、そんな言葉を発した。僕の写真に何かこの男の気にさわるようなものでも、写っていたのだろうか?半径2メーター圏内に鋭利な緊張が走る。
「はい、そうですが…。」
僕は、短く答えた。さっきと同じ目が、僕の目にいきおいよくぶつかってくる。この男の感情が読み取れない。
「兄ちゃん、アンタいいもん持ってる。気に入った、この写真全部くれ!」
それは僕の頭の中に用意していない言葉だった。
「全部….ですか?….すみません、お気持ちはありがたいのですが、商品がなくなってしまうので申し訳ないのですが…。」
自分の写真が一日にどれだけ売れるのか予想がつかなかった僕は、それほど枚数を用意していなかった。
「そうか、残念だがしかたないな。」
その目は、哀しそうに映った。
そして、次ぎにその男はさらに、意外な言葉を吐き出した。
「いい写真、見せてもらったかわりに、兄ちゃんにいいもんあげよう。」
そう口にして男はポケットから白いテープのようなものを僕に差し出した。
「このテープはな、ドイツでしか売ってない魔法のテープだ。
痛みのあるところに貼るだけで、なんと痛みが取れるんだ。」

もしもし、あなたは何教の教祖様ですか?

この男の妖しさパーセンテージは、うなぎ上りに加速した。そして、次ぎにポケットから名刺をさしだしてきた。その名刺に印刷された黒い文字が目に飛び込んできた瞬間、この男の妖しさパーセンテージはついに最高点に達した。

bulejack01

bulejack02


妖しい!!!!!!!!!

「人は俺をブルージャックと呼んでいる。」
男はニヤリと軽く笑って、はじらいもなく言い切った。

「人は…って、自分で名のってんじゃねーか!!」
声に出さずに全力投球で僕はつっこんだ。しかも、その時その男の顔は何ぜかどこまでも自信に満ちあふれていた。

「もしもし、ブルージャックですが、○○さんはいらっしゃいますか?」
この男はこんな風に電話をかけるのだろうか?そしてその電話を受け取ってしまった人は何を感じなんて答えるのだろうか?
僕は今にも噴き出しそうな、笑い顔をぐっとこらえるのに苦しんでいた。

「兄ちゃん、アンタ肩こってるだろ?」
仕事ばかりの毎日で、確かに僕の肩はひどくこっていた。するとブルージャックと名乗る男は容赦なく僕に近付き、有無を言わさず短く切った妖しいテープの切れはしを僕の右肩にじかに張り付けてきた。
「いいか、このテープを痛いところに貼ったらな、30秒待つんだ。
30秒以上貼ると危険なことになるから、気をつけろよ。」

もしもし、危険なことってなんですか?

僕はブルージャックを3流マジシャンのマジックを見る客のように、完全に色眼鏡で見て笑っていた。

「ヨシ、もういいだろう。」
ブルージャックはテープをはがした。
「どうだ、痛みが消えただろ?」

おいおい、ジャック、0.2秒でばれるようなペテンはよしなよ。と僕は右肩に手をまわした。

びびった!!!マジで痛みが消えている!

えっ!?なんで?あれ?やべ、うそっ?脳みそは完全に理解するキャパをオーバーしていた。ついさっきまであんなに痛かった肩の痛みが完全に消えている。僕の身体は座ったまま止まってしまった。

3流マジシャンだとバカにしていたマジシャンが目の前で物凄いイリュージョンをやってのけたのである。

「それじゃ、これからもいい写真を撮ってくれよ。」
そう言葉を残し、男の背中は人ごみで賑わうフリーマーケットの喧騒へ消えていった。不思議な夢でも見ているみたいだった。

あれから3年の月日が流れ、その後ブルージャックを見かけたことは一度もない。それが最初で最後の彼だった。あの出来事は何かの夢だったのだろうか?目の前のテープだけが、あれが現実だったことを物語っている。彼は僕にフリーマーケットは普段、出会えない人に出会える素敵な場所だと教えてくれた。

もし、誰かあの男にどこかで出会ったなら、その時はどうかブルージャックによろしく。


関連記事

#31「赤道を超えたラブレター 後編」

「ごめんなさい。シノベくんを男性として考えたことはありませんでした。」 撃沈。 そう

記事を読む

#19「消えたパスポート」

あの事件が起きたのは、1998年の夏の終わりだ。僕の短い人生で何番目かにエキサイティングな出来事

記事を読む

#42「お会い出来て良かった、小栗旬。前編」

突然、人生に奇跡が起きた。 それは夏が終わり秋の始まりといった、少しばかり肌寒い日の出来事

記事を読む

#30「赤道を超えたラブレター 前編」

2月、今年もこの街に恋の季節がやってきた。 こんな僕でも過去に一度だけ、ラブレターを書

記事を読む

#18「2.14の素敵な悲劇」

僕は昔から誕生日に、あまりいい思い出がない。 誕生日は今から約2ヶ月前、 2月14日のバレ

記事を読む

#38「写真を撮ってもらえますか? 」

「すみません、写真を撮ってもらえますか?」 観光地に遊びに行くと、たいてい誰かにお

記事を読む

#67「嗚呼、青春の空手道部 」

こう見えても大学時代は空手道部に所属していた。 空手道部と言えば、バリバリの体育会系。「気合い

記事を読む

#59「チェリーの秘密」

今から4,5年前の話。 仕事で付き合いの長い編集部に新人の編集者Tさんという方が入った。

記事を読む

#01「ラッキーカラーは黒」

いつものように一日が終わるはずだった。あの瞬間が訪れるまでは....。 2004年1月15日(

記事を読む

#48「アラーキーとシノーキー 完結編」

覚えているだろうか? 今から1年と少し前、縁があってアラーキーに写真を撮ってもらったことがある

記事を読む

PAGE TOP ↑