#25「伊国のマックで待ちぼうけ 中編」

公開日: : 最終更新日:2016/02/15

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受話器の向こうで鳴いている、空しい呼び出し音。駅の構内にある公衆電話からシュンの携帯へ電話をかけた。何度かけても繋がらない。きっと仕事中なのだろうと予想がついた。

かろうじて、店の電話番号は知っていた。念のためにと、シュンから教えてもらっていたんだ。しかし、できることならこの電話番号を押したくはなかった。理由は簡単。イタリア語で電話をかけなければいけないからだ。

もちろん、この31年間の人生でイタリア語で電話をかけたことなどあるはずもない。だが、この電話番号だけがシュンと僕とを繋いでくれる一本の細い糸。しかたなく観光ガイドブックに記載されたイタリア語会話のページをめくり、電話を掛ける時に使う言葉を探した。

受話器を握る右手の中に汗がにじんだ。それは、まだ携帯電話が世の中に普及する前に、好きな子の実家に電話したときいらいの緊張感だった。小さく震える人差し指がゆっくりと番号を押していく。心臓に直接響く、数回の呼び出し音。

「プロント?」

受話器の向こうからイタリア人の声が聞こえた。その言葉の後に、すかさず僕は覚えたてホヤホヤのイタリア語を並べた。

「プロント ペルファボーレ ジャポネーゼ シュン。」

日本語に直訳すれば、

「もしもし お願いします 日本人 シュン」

文法なんて知るよしもない。単語を並べただけのいい加減なセンテンスだ。はたして生まれて初めて発せられた言葉の連なりが、イタリア人に通じるのだろうか?

受話器を握る手に鋭利な緊張が走る。

「プロント? プロント?……….ガチャン ツーツーツー……」

突然、電話が切られてしまった。

なぜだ?
やはり発音がでたらめだったから通じなかったのだろうか?
それともあやしい人物だと思われたのか?
気を取り直して、再度挑戦してみた。
結果は同じだった。
また電話を切られてしまった。
唯一の細い糸も切られてしまったんだ。

シュンと話すことすら出来ない。
パスタへ続く明るい未来に暗雲が渦巻いた。
まるで複雑な迷路に入り込んでしまったみたいだ。

落ち着け。
こんな時こそ大切なのは平常心。
ピンチをチャンスに変えるんだ。

…まてよ?
….もしや?

完全に切られたかと思っていた細い糸が、
ひょっとしたらかすかに繋がっているかもしれない。

わずかな可能性にかけ、公衆電話を変えて電話をかけ直すことにした。
そして受話器を鷲掴みにして、もう一度ゆっくりと番号を押した。

「プロント ペルファボーレ ジャポネーゼ シュン。」

頼む!
全身のあらゆる神経を鼓膜に集中させた。

「…..シュン?…..オーケー。」

通じた!
まさかと思ったが、やっぱりそうだったんだ。
さっきは言葉が通じないのではなくて、公衆電話が故障していたんだ。

さすがイタリア。
公衆電話が壊れているなんて、日本じゃそうそうありえない。

それから、数秒後ついに受話器の向こうから日本語が聞こえた。
やっと自分はこの街で、一本の糸を掴むことができたんだ。

後編に続く………

 


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