#35「伝説の旅人 中編 」

公開日: : 最終更新日:2016/02/15

035_prade

1996 April

「君を忘れない~♪ 曲がりくねった道をゆく~♪」

スピッツがこの歌で、日本のヒットチャートを賑わせていた頃。シドニーではパレードの行進が、メインストリートを賑わせていた。

見物に訪れる大勢の人、人、人。
歩行者天国となったストリートを、ラッパを吹きながら行進する兵隊さん。華やかな音楽に包まれた街は、オーストラリアに到着したばかりのボクの目を、多いに楽しませてくれていた。

そんなボクの目の前に、たまたま赤ちゃんをかかえる母親の背中があった。
赤ちゃんだけがこっちを見て笑っている。
かわいくて思わずボクは、 買ったばかりのカメラを向けシャッターを切った。

それから少し歩くと、地下鉄の出口の屋根の上でオーストラリアの国旗を持った少年が目に映った。カメラを向けると、タイミングよくこちらを向いてくれたので、またシャッターを切った。少年の後方には時計台があって、絵にある光景だと感じた。

それから、数日後、そのフィルムを街の写真屋でプリントした。最初に少し戸惑った。予想していた写真と違っていたからだ。それは今まで自分で撮影したことのある写真とは明らかに違っていた。

簡単に言えば、いい写真だった。
赤ちゃんや子供だけにピントが合っていて、背景が自然にぼやけている。いま見れば、どうってことのない写真だけど、その写真はボクに小さな衝撃を与えた。

「これが一眼レフカメラの魅力かぁ。」
ゾクゾクしたものが背中を通過した。
なんだか楽しい気持ちで満たされていった。
それは、写真の面白さを知った瞬間だった。

035_2_AUS-Bike

そして、旅は始まった。

シドニーのバイク屋で購入した、オフロードタイプの中古のバイクにまたがって。

最初はバイクで走っているだけで、ただただ幸せ、ただただ、感動。抜けのいい乾いた青空と白い雲、見たことのない鮮やかな鳥の群れ、どこまでも続く360度の地平線。気持ちのいいリズムで流れる、オーストラリアの広大な景色。そんな景色に出会うたび、バイクを止めカメラを向けた。

しばらくすると、バイクで走ることよりも、写真を撮ることに夢中になっている自分がいた。旅先で知り合った友人に写真を見せると、いろんな人が誉めてくれ、写真を欲しいと言ってくれた。ある時、友達がこう言った。

「将来、カメラマンになれば?」
「まさか、そんな甘い世界じゃないよ。無理でしょ。」

と苦笑いした。だけど、その言葉とは裏腹にボクの胸は早鐘を打っていた。

「カメラマンになる….。そんなことができるのだろうか?」

その日からバイクで旅しながら、2つの感情が交差した。
「カメラマンになりたい」という感情と、
「カメラマンなんかで食べていけるはずがない」と否定する感情。

そんな葛藤と一緒に旅をしていた頃、日本人が集まる安宿で、物凄い噂を耳にした。その噂とは、いまこのオーストラリアを、歩いて旅をしている人がいるという話。

一瞬、耳を疑った。
バイクで走っても、とてつもなく広いこの国を歩いて旅をしているなんて…。いままで自転車で旅をしている人には、数人会ったことがあった。やはりみんな過酷そうで、途中でリタイアしてしまう人も多いと聞いた。それなのに、バイクでも、自転車でもなく、歩き。

どうやら、その人は食料や水などをリヤカーに載せ、引きながら旅を続けているらしい。さらに驚いたのは、その人は日本人で、しかも女性だという。その人は、誰が呼んだか「リヤカー幸ちゃん」と呼ばれていた。

彼女は今、西オーストリアを歩いているらしい。強烈に思った。
「幸ちゃんに会いたい!」と。
早速、ボクは西へ向かった。

「伝説の旅人 後編」へ続く!


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