#04「桜の咲く少し前」

公開日: : 最終更新日:2016/02/15 写真

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「バイオリンはずっと嫌いだった。」

彼女が呟くように口にした。その言葉を僕は意外だと思った。

彼女の名は亀井美千代。音楽室という名のバンドでバイオリンを演奏している。去年の12月にインディーズのデビューアルバムとなるジャケットを撮影したとき、
「今度、単独で撮影してみない?」と彼女を誘った。絵になる人だと思ったからだ。
「いいですね。よろしくお願いします。」快く承諾してくれた。

僕は彼女と彼女のバイオリンを桜の前で撮影したいと思った。以前聴かせてもらった音楽室の曲の中に彼女がボーカルを担当した桜の季節を描いた歌があった。今回の撮影はその歌のイメージから連想するものだった。

天気予報のお姉さんは、
「今週の日曜日に桜は満開となり、良く晴れたお花見日和になるでしょう。」
と呑気に伝えていたが、神奈川の桜は満開と呼ぶには、少し早いそんな春だった。

それでも、わずかに咲きはじめた桜を探して、その木の前に立ってもらった。彼女と僕の間に三脚を置いて、中判と呼ばれるフィルムサイズの大きいカメラをセッティングする。僕が撮影の準備をしていると、不意にバイオリンの優雅な音が流れはじめた。雲ひとつ無く、良く晴れた休日に桜の前で、バイオリンを演奏している。その音はどこまでも心地よく僕の耳に届いた。それはとても贅沢な時間で、いつまでも聴いていたいそんな気分になった。

「バイオリンを楽しいと思ったのは本当に最近。音楽室をやり始めてから、だんだんそう思えるようになったの。」
彼女が笑った。

満開に咲く少し前の桜が、そんな彼女と重なった。

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