#54「 メトロポリタン モンスター」

公開日: : 最終更新日:2016/02/15

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マンハッタンの中心にそびえ立つ、巨大な古びたホテル。510の部屋に置かれたデジタル時計が深夜の時刻を知らせている。

11:59 PM

ようやくこの国もあと1分で、9月21日の日曜日を終えようとしている。

ここはニューヨーク。

日本との時差は約半日。今頃、会社のみんなは昼飯のことでも考えている頃だろうか。そんなことをボクは全裸で考えていた。無機質なユニットバスの中で、パンツを洗濯しながら。

アメリカに着いて3日目。そろそろ着るものが無くなってきたのだ。

仕事でニューヨークにやってきた。ニューヨークで撮影と言っても、スーパーモデルを撮るわけでもなく、素材写真用として、街並や壁などを1週間かけて撮影するような仕事。仕事だけれど、他に誰か付き添いがいるわけでもない。だから、この国にふさわしい自由のあるご褒美のような仕事だ。

ニューヨークに来る前に、2日間はボストンに滞在した。ヨーロッパの街並のように赤レンガ造りの建物が立ち並び、人も穏やかで居心地が良かった。

今日の夕方ボストンを出発し、約1時間後ニューアーク空港に到着。そこから1時間ほど電車に揺られ、数時間前にようやくニューヨークにたどり着いたのだ。

古い建築様式のせいか、窓はなぜか最後まで閉まらず、すき間風が全裸をゆるりとなでる。窓の外はサイレンやクラクションの音で騒々しく、街はまだまだ眠りそうもない。

いつからだろうか、一度この街の空気を肌で感じてみたいと思い描いていた。ここは世界の首都、ニューヨーク。

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かの競争をしているみたいだ。
黄色い車体が、もの凄いスピードで交差点を駆け抜けていく。この街の名物にもなっているタクシー、通称イエローキャブ。

皆紳士的だったボストン市民とは違く、ホテルの受付もファーストフードの店員も皆、愛想がなく素っ気ない。足下にはゴミが転がり、どこからともなくサイレンやクラクションが耳に響き騒々しい。

しかし、そんなマイナス要素に反比例するように、ボクの胸は高鳴っていた。

この街、面白すぎる。

白人、黒人、アジア人、多種多様な民族が次から次へと視界に飛び込むストリート。街を歩く人々は誰もがエネルギッシュで、そのエネルギーが大きなうねりを作りだしている。まるで、街そのものが巨大な怪物のようだ。

中国人街、イタリア人街、ブラジル人街、韓国人街、日本人街、ユダヤ人街。マンハッタンにはいくつもの外国人街が存在する。

例えば、漢字だらけの看板が視界に飛び込むチァイナタウンの1ブロック先に、突然イタリアンレストランが連なるリトルイタリーが出現するのだ。ひとつの場所にこれだけ多くの人種が集まる街が世界中で他にあるだろうか。

まさにニューヨークが人種のるつぼと呼ばれるゆえんだ。

人物フェチの自分にとっては、たまらない街。カメラをかまえるだけで、全身の血が騒ぎだす。

一瞬、映画の世界に迷い込んでしまったような錯覚をすることがある。視界に映るすべての人が、映画の登場人物のようで、全ての人にカメラを向けたくなる。まさに、街中がシャッターチァンスの宝庫だ。

ニューヨークはいままで訪れた幾つかの海外の中で、一番フォトジェニックな街かもしれない。

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