#67「嗚呼、青春の空手道部 」

公開日: : 最終更新日:2015/07/10 ネタ話

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こう見えても大学時代は空手道部に所属していた。
空手道部と言えば、バリバリの体育会系。「気合い」と「根性」と「酒」と「タバコ」の日々を汗臭い道場で僕らは過ごした。

自分は顔がすぐに赤くなってしまうので、それほど酒は強くはなかったが、部員の仲間達は、とにかく酒好きが多かった。

その中でもとくに酒が好きだった男がSくん。
練習が終わると、必ず部室で酒を飲み、毎日のように明け方になるまで飲み明かしていた。酔っぱらったまま車を運転して、思いっきり蛇行しながら自宅のアパートへ向かう彼の姿が今でも印象的だ。

大学2年の夏休み。
空手部の仲間4人で海水浴へ行く計画を僕らは立てた。

出発する当日の朝。
7時に大学の部室前で待ち合わせをしていたが、Sくんだけ、いつまでたっても現れない。

当時はまだ携帯電話が世の中に普及する前だったので、彼のアパートに電話をした。しかし、何コールしても電話に出ない。しかたなく、僕ら3人でSくんのアパートまで車で向かうことにした。

約10分後、Sくんのアパートの前に到着。
彼の家の玄関前に立つとなんだか、やけに焦げ臭い匂いが鼻をさした。

雨雲のように嫌な予感が胸の中に広がった。
慌てたボクの指が、ドアのチャイムを鳴らした。

出てこない。

不穏な空気が僕ら3人の間により一層漂った。

ドアのノブをまわすと鍵はかかっておらず、勢い良くボクはドアを開けた。

すると、とんでもない光景が僕ら3人の眼球に飛び込んできた!

真っ黒なのだ、部屋中が!

爆弾が落とされたあとの部屋みたいに、焦げ臭い匂いが部屋中に充満している。

「だいじょうぶかぁー!Sー!!」

思わずボクは震えた声で、部屋に向かって叫んだ。

すると、部屋の奥の方から、ドリフのコントみたいに顔を真っ黒にしたSくんが現れた。

真っ黒の焦げ臭い部屋、真っ黒の顔のSくん。

これはどう見ても、ただ事ではない。
今まで味わったことの無い緊張感が、辺り一面に張りつめた。

すると、

「いやー、寝過ごしちゃったよー、ごめんなーお前らー。」

何事もなかったような明るい笑顔でSくんは笑っていた。

「俺もさっき起きてびっくりしたんだけどさ、どーやら昨日の夜、酒を飲みながらフライパンで唐揚げを揚げたまま、寝ちゃったみたいだなー。ガッハッハッーーーーー!!」

驚いた!

釣り上げられた魚のように、思わず口をパクパクさせてしまった。だって、こんな大惨事なのに、まるで人事のように、なんとも呑気に事件の真相を彼は話したのだから。

とにかく、これはもう海水浴どころではない。
今すぐアパートの大家さんに電話して、この状況をなんとかしなくてはならない。

そんな心配をよそに、さらに驚いた言葉が彼の口から飛び出した。

「そんなことより、早くいこーぜ、海水浴!!」

びびった!

この状況を前にして、Sくんは爽やかに一言、言い放ったのだ。
しかも、彼の顔には遠足へ出発する小学生のような満面の笑みが浮かんでいた。

そして僕ら4人はその日、何事もなかったように、そのまま海へ向かった。

数時間後、茨城の海へ着くとSくんは真夏の太陽のような明るい笑顔で開口一番、口にした。

「あちーなー!とりあえずビール飲もうぜ!」


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