#78「 二度目の門出 後編」

公開日: : 最終更新日:2016/02/15 写真

batyan02
携帯に録音されていた母からの伝言を聞いたとき、まず最初に遺影のことが気になった。

そのことについて母に尋ねると、婆ちゃんの部屋に飾ってあった小さな写真を引き伸して使うつもりだと言う。
そして、その写真をすでに葬儀会社の担当の人に渡し済みだった。
それはまずいと思った。

なぜなら、婆ちゃんの遺影は、小さな写真を無理に引き伸ばして使うのではなく、ちゃんと大きくプリントした写真を使ってほしいと考えていたからだ。これからずっと永遠に残る婆ちゃんの遺影が無理に引き伸ばされて、ピンぼけ写真みたいになってしまうのはあんまりだから。

母に連絡し、婆ちゃんの遺影を速達で送ることを伝えた。
会社には事情を説明し、午前中休ませてもらうことにした。

パソコンのモニターに婆ちゃんの笑顔を大きく表示した。
ありのままの状態でプリントするべきなのかとも、正直迷ったけど、やっぱり婆ちゃんも女。
これからずっと残る写真ならきっと、少しでも綺麗な自分でありたいはず。

頬のあたりのシミをいくつかデータで修正した。
これが、最後の婆ちゃん孝行になるんだな。
そんなことを考えながら。

仕事が終わり電車に揺られ、駅に着くと雨が降っていた。
ポツリポツリというよりは、ザーザーと雨が降っていた。
歩きながら、折りたたみの傘を開いた。
傘に降りそそぐ雨音。
ポツポツポツポツポツッ………..

ふいに実感した。
婆ちゃんが遠い場所へ旅立ったことを。

婆ちゃんは自分が小さい頃から、すでに姿、形は婆ちゃんだった。
だけど婆ちゃんにも当然、子供と呼ばれた日々があった。

みんなに祝福されて、この世に生まれ、学校に通い、きっと初恋なんかも経験したはず。20歳の頃、太平洋戦争がはじまり、そして日本は敗戦した。苦しい生活の中、爺ちゃんと出会い、結婚し、やがて母を生んだ。その母も成長し、父と出会い、結婚し、やがて自分を生んでくれた。

もし、婆ちゃんがいなかったら、母も居なければ、自分もこの世に存在せずに、こうして傘に降りそそぐ雨音を聞くこともできなかった。

そう考えると、やっぱり婆ちゃんは偉大だ。

月並みな言い方になってしまうけど、婆ちゃんありがとう。
そして、お疲れさま。
ゆっくりゆっくり休んでください。

でもよかったね。
久しぶりに天国で爺ちゃんに会えるもんね。

7月16日(金) 告別式

青い空には、夏の到来を知らせる大きな白い雲が浮かんでいた。
今週ずっと雨が降っていたのが嘘みたいだ。
婆ちゃんは晴れ女だったのかもしれない。
どうやら梅雨明けしたみたいだ。

棺に眠る白無垢に包まれた婆ちゃん。
綺麗に化粧をしていて、唇には赤い紅がひかれていた。
肌ツヤもよく、本当に眠っているみたいだった。

白無垢を着て化粧をした婆ちゃんを見て、きっと爺ちゃんはビックリするだろうね。婆ちゃんの二度目の門出を祝して、献杯!

iei


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