#82「戦い続ける男達」

公開日: : 最終更新日:2016/02/15 写真

sensei
「ズドン!ズドン!」

「パス!パス!」

「ズドン!ズドン!」

「パス!パス!」

ここは王子駅の近くにあるキックボクシングのジム。市川くんが構えるミットに、パンチとキックを打ち続けている。なぜか一般ピープルの自分が、プロのキックボクサーと一緒に。

同じミットに蹴りをいれているとは思えない。ジムに響くミット音がまるで違う。3分間に設定したタイマーのデジタル表示が0になるのが、待ち遠しい。3分がこんなにも長いものだとは知らなかった。

そもそも、何でカメラマンである自分がこんなことをしているのだろうか?

以前、縁があって知り合ったカメラマンの市川くん。彼は格闘技を本格的にトレーニングしているだけあって、とても男らしい風貌の持ち主だ。その外見とは裏腹に、笑顔がチャーミングで、何よりも一緒にいて、とても気持ちがいい。

初めて会ったとき、いつか撮りたいと直感が騒いだ。しばらくしてから、そんな彼に写真を撮らせてほしいとお願いしたら、二つ返事で快く引き受けてくれた。

「篠部さん、良かったら写真を撮った後、一緒に練習しませんか?」

「おっー、いいよ、それじゃぁ、ジャージでも持っていけばいいかな?」

彼の爽やかな笑顔と軽快な会話のテンポに乗って、気楽に答えた自分が甘かった。

とにかく、しんどい。何年振りだろうか?こんなに激しい運動をしたのは?35歳の右足の太ももが悲鳴をあげている。明日は間違いなく筋肉痛だ。

翌日の筋肉痛は確定してしまったが、なんにせよ、いい体験ができたし、本題であるいい写真も撮れた。ハッセルブラッドの正方形のファインダーに映る立ち姿をのぞいていると、なんだか嬉しくなった。やはり、こんなにも辛いことを毎日何時間も何年もやり続ける人達はかっこいい。

しかもこのジムの先生はシュートと呼ばれるキックボクシングの団体で世界チャンピオンにもなった、タイの英雄だ。いろんなことを犠牲にして鍛え抜かれた肉体を作りあげ、戦い続ける男の立ち姿。それが絵にならないわけがない。

itikawa
今回、市川くんの構えるミット打ちのトレーニングを一緒にしてくれた日本人の青年がいる。彼はシンダムというリングネームを持つ、プロのキックボクサーだ。体験練習が終わった後に、シンダムくんに尋ねた。

「ここまでいきたいとか、将来の目標はあるの?」

「ベルトが欲しいですね。ベルトがかっこ良くてしかたがないです。」

練習の時とは違った、人懐っこい表情を浮かばせて彼は即答した。

キックボクシングのチャンピオンになってベルトを巻くシンダムくんの立ち姿。
また1つ、いつか撮りたい写真が増えた。

sindamu


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