#90「7DAYS INDIA その7 悪夢のサイクルリクシャー」

公開日: : 最終更新日:2016/02/15

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1月3日 夕刻
荷造りを終えバックパックを背負い、3日間お世話になったホテルを出発した。駅へと続く大通りへ向かって。

これからバラナシ駅まで移動し三等の寝台列車に乗って、8時間かけてアグラへ向かうのだ。喧噪に包まれた大通りは人ごみでごった返しており、駅までは車で移動しても30分ほどかかる。

インドでの一般的な移動手段は二つ。オートリクシャーと呼ばれる三輪のバイクタクシーと、サイクルリクシャーと呼ばれる三輪の自転車タクシー。当然オートリクシャーの方が早いけど、サイクルリクシャーの方が値段も安く、座席に屋根も無いので眺めがいい。

大通りを歩くと早速、黄色い布を身にまとった20代前半の男に声をかけられた。

どこへ行く?駅までなら60ルピーだ。」

インドでは値段なんて、あって無いようなものがほとんどだ。タクシーなどの交通手段も全てが交渉次第。

駅までの相場は良くわからなかったけど、おそらく高めの料金をふっかけているだろう。だから、「高いから必要ない。」と断って歩き出した。

もっと安く乗せてくれるサイクルリクシャーがきっとあるはずだ。そう思って、それから少し歩いたけど、だんだん列車の時間が気になりだしてきた。そもそも、たった数ルピーのお金をケチって列車に間に合わなかったらバカらしい。

また来た道を引き返し、さっきの男と交渉してみることにした。少し歩くと、さっきの男と目が合い、こっちを見て嬉しそうな顔をした。

「駅まで行くんだろ?60ルピーでどうだ?」

「高いから40ルピーで行ってくれないか?」

「それは無理だ。それなら50ルピーでどうだ?」

多分本当の相場はもっと安いのかもしれない。それでも、お金よりも時間を優先することにして、50ルピーでサイクルリクシャーに乗ることに決めた。

その時は、わかるはずもなかった。まさか、それから数分後に、あんな事件に巻き込まれることになるなんて。

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サイクルリクシャーが走り出した。乗り心地は意外と悪くなく、眺めも良くて気持ちがいい。大通りは人やバイクや自転車、車に野牛などでごった返していた。その中をサイクルリクシャーはぶつかることもなく、器用にすり抜けて行く。そのテクニックに感心していると、男はふいに大通りをはずれ一本の細い路地へ左折した。

おかしい。たしか大通り沿いに進めば、駅にたどり着くはずなのに。なんでいきなり、こんなひとけの少ない道へ曲がったんだろう?

背筋に緊張が走った。

まさか、このままどこかへ連れていかれるんじゃないだろうか?そして、そこに仲間が待っていて、「逃がして欲しければ、金を全部よこせ!」とか脅されるのでは?

自転車に揺られながら悪い妄想が広がっていった。まるで心の中に黒いインクをたらしたみたいに。

「ちょっと待ってくれ!なんで突然曲がったんだ?」

すると男は軽く笑いながら「心配ない。こっちは駅までの近道なんだ。」と口にした。

本当にそうなんだろうか?この道を行けば行くほど人通りが少なくなっていく。もしも本当にこの道が近道ならば、他にも同業者であるタクシーが走っているはず。やっぱりおかしい。

「止まってくれ!大通りを真っすぐ行けば、駅に着くはずだ、だからさっきの道へ戻ってくれ!」

「近道だから心配ない。」

男は同じ言葉を繰り返すだけで止まろうとしない。緊張感がますます高まり口調を強めて叫んだ。

「いいから止まってくれ!止まらなければ飛び降りるぞ!」

すると、男は一瞬だけビクッとして肩をすくめて口にした。

「オレは英語が良くわからないから、何を言っているのかわからない。」

信じられない さっきまでずっと英語で話しをしていたのに!この言葉を耳にして決心がついた。

「わかった。三つ数えても止まらなければ、本当に飛び降りるからな。いいか 3、2、1…」

それでも止まらなかったので、アクション映画さながらに荷物を抱えて飛び降りた。そこでさすがに男は立ち止まった。誰もいない細い路上でにらみ合う日本人とインド人。重い空間に交差する視線と視線。すると男は思い直したように弱々しく口にした。

「わかった、わかった。お前の言うとおりに大通りから駅に向かうよ。」

それから二人はしばらくして人ごみでにぎわうバラナシ駅へ着いた。

どうだったのだろう?駅に着いてみれば確かにさっきの道は近道だったような気もするし、そうじゃ無い気もする。

真相は分からなかったが、結果無事に駅に着くことは出来た。男にはさっきは疑って悪かったねと、運賃の50ルピーの倍の100ルピーを笑顔で手渡した。すると男も緊張の糸がほどけたようにさっきまで見せなかったような爽やかな笑顔で手を振った。

果たしてあの道は本当はどこへ続いていたのだろうか?

何が嘘で何が本当なのかが、あいまいで分からない。でもそれがこの国へと多くの旅人を惹きつけるインドの魅力のひとつなんだろう。そんなことを改めて思いながら荷物を背負って夕暮れ染まるホームへ向かった。

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#91「7DAYS INDIA その8」


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