#106「斎藤さんのパプリカ畑」

公開日: : 最終更新日:2015/07/12

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宮城県 山元町。
この土地を訪れるのは今回で2度目だ。

2011年3月11日。
この町はあの日突然、津波の被害に襲われた。震災の3ヶ月後、インターネットで見つけたボランティア募集のページから申し込みボタンをクリックして、震災復興の活動に参加させてもらった。

町中に築かれた瓦礫の山。めちゃくちゃに破壊された配線むき出しのコンビニ。巨大なプレス機でつぶされたような車がころがっている田んぼ。電柱はなぎ倒され、貨物列車は線路の途中で止まってずっと動かない。そんな光景を目の前にして、言葉を失った2011年の6月。

あれから1年と3ヶ月の時間が過ぎた2012年の9月。
山元町に流れる空気はとても静かで落ち着いていた。あふれていた瓦礫の山も片付けられ、町には穏やかにゆっくりと時間が流れている。実際に再びこの町を訪れて、復興のスピードは思っていた以上に早いと感じた。

去年は復興までに10年はかかると思っていたけど、これなら5年で復興する。無責任なことは簡単に言えないけど、感覚的にそう思えた。

今回の活動は農家の復興支援。斎藤さんのパプリカ畑で2日間のお手伝い。小柄で腕が太くて、いつも優しい笑顔を浮かべている還暦間近のいい感じ斎藤さん。

「篠部です。よろしくお願いします。」

「珍しい名前だな。北海道の人かい?」

「いや、実家は栃木なんですけど。」

「そうかい、それじゃぁ、よろしく篠田さん。」

「いや、すみません、篠部です。」

それから、少しすると、

「それじゃぁ、ちょっと手伝ってくれないかな、篠田さん。」

こんな感じですっとぽけてるけど、いい味だしてる斎藤さん。

お手伝い2日目の天候はあいにくの雨。激しい雨音がビニールハウスをたたき続けている。休憩時間に斎藤さんがゴホゴホと咳き込みながら、包丁でスイカを豪快に切ってくれた。

「年のせいか、なかなか風邪が治んないの。タバコとお酒飲んでちゃ、治るもんも治んないよね。」

そういって斎藤さんはいたずらに笑った。

「今日は日曜日ですけど、いつ休んでるんですか?」

「休みはないよ。冬場は休むけど、やることいっぱいあるし、それに休んでたらボランティアの人達に申し訳ないからね。」

「それじゃぁ、あの震災の日も畑で作業してたんですか?」

「そうだよ。必死に逃げたよ、車でね。でも全部流されちゃった。畑も家もね。なんにもなくなっちゃったよ。」

それ以上、何も聞けなかった。
きっとその畑にも心を込めて育てた大切な野菜がたくさんあったはず。
それが一瞬にして、すべて流されてしまった。野菜も畑も家も全部。そう思うと胸が痛んだ。

「仕事は何をしてるの?」

「カメラマンです。東京のスタジオで働いています。」

すると斎藤さんは何かを思いついたように

「それじゃぁ、写真を撮ってもらおうかな。赤いパプリカと黄色いパプリカが並んでいるところがあるんだわ。そこを撮ってくれないかな。」

なんでだろう?とも思ったが、リクエストに応えて、一息ついてからビニールハウスの中で育った、赤いパプリカと黄色いパプリカの写真を撮影した。その写真をカメラのモニターで見てもらうと、うんうんと深く頷いたあとに、

「いいね、上等だよ!」

と斎藤さんは優しく微笑んだ。
まるで、自分の子供の成長を見守る親のような顔をうかべて笑った。そのことがとても嬉しかった。自分の写真がこういった形で喜んでもらえて、なんだか自分も嬉しかった。

そして、その時わかった気がした。どうしてこの写真を撮ってほしかったのかを。

斎藤さんは、あの日の津波で海岸沿いにあった畑も家も全部流されてしまった。きっとその時目の前にあった未来は、絶望の二文字しかなかったと思う。それから数ヶ月後、海から離れたこの土地を国から借りた。最初は瓦礫や雑草、石ころだらけの荒れ地だったそうだ。

そんな土地を一から耕し、みんなで力を合わせて、ようやく畑に実を結んだパプリカ。斎藤さんにとって、このパプリカは復興の兆しそのものなのかもしれない。

荒れ地だったこの畑に斎藤さんの優しい笑顔が咲いていた。

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