#127「40回目の誕生日」

公開日: : 最終更新日:2015/07/12 ネタ話

ヒッチハイク
40歳は若造だ。

まだまだ、学ばなければいけないことが、たくさんある。体験していないことも、たくさんある。新しい年代が始まって数時間後、初体験のハプニングに早速、遭遇した。

2015年2月14日 午前10時過ぎ

ガソリンスタンドの手前の信号が赤に変わり、車を止めた。急ぎの用で、武蔵小杉のショッピングングモールに買い物へ向かう途中だった。

突然、20代くらいの一人の青年が視界に飛び込んできた。信号待ちの目の前の車に、声をかけているようだ。「なんだ?ガソリンスタンドの店員か?それにしては山登りでもするような格好だな。」

どうやら、その車の運転手に断られたらしく、青年はクルッと細身の身体を翻し、こちらにスタスタと歩いてきた。

反射的に僕は目を逸らした。時間がないし、面倒くさいことに巻き込まれるのは、ごめんだからだ。「すみません。」助手席の窓越しから、青年の声が直線的に僕の耳に届いた。「ヒッチハイクをしているんですけど、新宿まで乗せてもらえませんか?」

ヒッチハイク?旅好きの僕の心は、そのキーワードに捕まった。

テレビや映画では見たことがあるけれど、実際に声をかけられるのは初めての経験だった。40代の世界に突入して、早速こんなハプニングが起こるなんて、なんだか幸先のいいスタートだ。

2.5秒後、僕はドアのロックを解除した。「いいよ。でも時間があまり無いので、途中まででも良ければね。」同じ旅人として、僕は若者の存在を歓迎したのだ。先輩風を吹かせたドヤ顔を、運転席で密かに浮かべながら。

当初の目的地だった武蔵小杉を通り過ぎ、車を運転しながら彼の話に耳を傾けた。名古屋からヒッチハイクを始めて、これから新宿にいる友達に会いにいく途中だという。

これも何かの縁だ。

ひょっとして、40回目の誕生日となる記念すべきこの日に、この青年と偶然出会ったのも、何か意味があるのかもしれない。明るい未来へ続く、名もなき期待感に溢れ、僕の鼓動は高鳴っていた。環八を過ぎ、環七へ向かう途中の赤信号でブレーキを踏むと、青年はあらためて言葉にした。

「乗せていただき、どうもありがとうございます!」
「いいよ、オレも旅とか好きだし、それにしてもヒッチハイクなんて凄いね、普段は何してるの?」
「実は会社に3ヶ月の休みをもらって、色んな経験をする為に、こうしてヒッチハイクをしてるんですよ。シノベさんは、お仕事は何をされているんですか?」
「フリーでカメラマンをやってるんだよね。」
「凄いですね~!大変そうですけど憧れます。」

助手席で言葉を交わす純朴な彼の目に、僕は20代の頃の自分の姿を重ねた。まだ何者にもなれていなかった、情熱と不安が交差していたあの頃。そんな横顔に、そっとピントを合わせ、僕は静かに携帯カメラのシャッターを押した。

その時だ。

青年の穏やかな表情が豹変した!
┌(; ̄◇ ̄)┘

「顔だけは勘弁してください!会社にバレるとまずいので!!」

怒りにも似た声色を発しながら、彼は両腕で顔を覆い隠した。予想外のその行動は、少なからず僕を動揺させた。

「あっ、ゴメン!そっ、そうだよね。」
((((;゚Д゚)))))))

一瞬にして、ずっしりと重い空気に車内は包まれた。

重苦しい気まずい空気に耐え切れず、僕は口火を切った。
「あっ、じゃぁ~、次の信号まででいいかな?ごめんね、本当は新宿まで乗せて行きたかったんだけど、あまり時間がなくてさぁ~。」^_^;
「いえ、全然大丈夫です。すみません、乗せてもらったのに、変なこと言って。顔はダメですけど、この紙ならいいですよ。」
彼はそう口にして、別れ際にヒッチハイクと書かれた大きな紙の写真を一枚撮らせてくれた。

同乗した20代の若者に同情される40歳のカメラマンって、いったい!?ヽ(;▽;)ノ

青年は何も悪くない。勝手にノスタルジーな妄想を膨らませてしまった、無神経な自分に非があるのだから。

いい縁になると思ったのに、現実はチョコのように甘くない。しばらく走り車を止め、見上げた2月14日の空はどこまでも青かった。

まだまだ、学ばなければいけないことが、たくさんある。
40歳は若造だ。


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