#126「クアラルンプールの空の下」

公開日: : 最終更新日:2019/09/05

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空港を降りると、南国特有の甘ったるい湿気を帯びた空気が早速、肌にまとわりついてきた。

空を見上げるとクアラルンプールの街は厚い雲に覆われていた。マレーシアの地に降りたつのは、約20年振りになる。

そう言えば、初めて一人で海外を旅したのが、この街だった。当時は猿岩石がユーラシア大陸を貧乏旅行しながら、テレビを賑わせていたあの時代。そんな旅に影響された21歳の僕はバックパックを背中に背負って、空港に降りたち、キョロキョロしながら宿を探していた。

「この辺で一番安い宿に行ってください。」

ヘタクソな英語で、髭面の無愛想なタクシーの運転手にお願いすると、おっちゃんは無言で車を発進させた。しばらく走り、連れていかれたのは町の外れにある、木造建てのボロっちぃ安宿。

宿の管理人らしき、褐色に焼けた青年が、人懐っこい笑顔を浮かべながら部屋へ案内してくれた。無機質な扇風機が、天井でシュンシュンと回ってるだけの、白い壁に囲まれた、窓のない狭い部屋。

一人用のベッドに寝転がっていると、今が昼なのか、夜なのかもわからなくなって、なんだか気が狂いそうになった。しかも無茶苦茶、乾燥していて喉がカラカラになり、ミネラルウォーターを買いに夜の町へ飛び出した。

買い物を済ませた後、小さな定食屋で、読めない文字で書かれたメニューを指で指し、ココナッツミルクの効いた真っ赤なカレーを胃袋に放りこんだ。翌日の朝、見事にカレーが的中し、1日中部屋の便器に這いつくばって、悶絶していた苦い思い出が蘇る。

その宿には1週間ほど滞在して、管理人の青年と親しくなり、慣れない英語でたくさん話をして、たくさん笑った。別れ際に住所を交換し、帰国後に彼と一緒に撮った写真を同封して、手紙を送った。

それから、しばらくたっても結局返事はこなかった。そもそも日本から海を渡って、町の外れのあの安宿に、手紙が無事に届いたのかどうかも今となっては、謎のままだ。

20年振りに訪れた、クアラルンプールの空の下で、あの青年は今も人懐っこい笑顔を浮かべながら、旅人と一緒に笑っているのだろうか?

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